レインブルー

残された俺は今も応答がない部屋の前でただぼんやりと突っ立っている。


――七瀬先生は結婚より仕事をとったんだって。


いつだったか。

俺は以前、七瀬先生の夢を聞いたことがある。


「怪我をした子どもだけじゃなく、心に傷を負った子どももみんなが安心できる場所を作りたい」


夢を語る七瀬先生の生き生きとした表情に俺は引き込まれた。

七瀬先生ならきっとその夢はすぐに叶うと思った。

来る生徒一人一人がみんなが笑顔で保健室を後にするのを何度も見てきたからだ。

現に俺もその中の一人だった。


「あの…」


俺は扉の向こうに声をかけた。


「ご飯食べてますか?」


やっぱり無言。

きっと相手にしてみれば何を悠長なことを言っているんだと怒っていることだろう。


「…この前は怒鳴ってすんませんでした」


謝るぐらいならここから早く出せと思っているに違いない。


「本当に何もしないんで。そこでじっとしていてください。あとご飯は本当にちゃんと食べてください。餓死させたくないんで…」


自分でも下手な説得だと思う。

それでも俺は来る日も来る日も部屋の前で念を押し続けた。
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