レインブルー
そんなある日のことだった。
七瀬先生の様子にある異変が訪れた。
「ありがとうございます。ちゃんと食べてくれたんすね」
いつものように夕食を持っていくと、毎日の説得のおかげか今朝用意した朝食がきれいさっぱりなくなっていた。
七瀬先生は布団の中に入ったままで俺と顔を合わせようとしない。
その背中にある警戒心はまだ解けていなかった。
もう三週間近くも閉じ込めている。
世間ではこれを監禁と言うんだろう。
俺は静かに部屋を出て、被っていたマスクを外した。
それから扉にもたれかけるように座って、またいつものように扉の向こうに話しかけた。
話しかけることで少しでも七瀬先生が安心できるんじゃないかと思ったからだ。
「昨日の話の続きなんですけど。俺、夢があるんですよ。大好きな海の近くで小さくてもいいから家を建ててそこで家族と暮らすこと。平凡でしょ?」
七瀬先生に俺のことを知ってもらいたい一心で、自分のことばかり話し続けた。
「でも海の近くだったら毎日サーフィンできるから。よく友達にサーフィンバカって言われます」
そうして今日も独り言で夜が更けるのだと思っていた。
しかし今回は違った。