其の名はT・Y
「ん?ちょっと待ってくださいね、意味わからん」

「書類の数だけ記入例はありますよね」

「まあ、大体はね」

「その書類が全部有効だとすると、ですね」

「山田太郎さんにいろんな登録がされちゃう…?」

「その通りです、戸籍に始まって各種料金支払いにスーパーのポイントカード会員、まあそのあたりはいいんですが」

そう言ってオッサン改め山田さんは今度は外のポケットから一枚の紙を取り出して俺に見せた。

「なんスか?これ」

「国内のとある地下組織が作っているブラックリストです。一番上を」

促されてその紙の一番上を見ると、そこには「例:山田 太郎」の名の後に適当な住所や所属団体がつらつらと並んでいた。

「こういうのも全部登録されてるんです。で、お金払わないといけなかったり命を狙われることまであるので、自然とこんな因果な稼業になりまして」

そう言って申し訳なさそうに山田さんは笑ってた。

「まあ、合法非合法、危険度や場所に一切の制限なく仕事を請け負う何でも屋だと思ってください」

「は、はぁ……」

あまりに突拍子のない説明におれが目をパチクリ…かわいいなパチクリって…させていると、山田さんは続けた。

「と、いうわけで、ご依頼はありませんか?」

「い、いや、別に」

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