其の名はT・Y
そう言って何の気なしに腕時計を見た俺は青ざめたね。

「ヤバい!遅刻だ!彼女にどやされる!」

この不思議なオッサンに関わっていつの間にか時計の針が約束の時間を1分少々オーバーしていたんだから。

脳裏に浮かぶのは「遅い!」と頬を膨らませながら俺をバシバシ叩く彼女の姿。

「ふむ、何かのご縁です、お送りしましょう」

俺が頭を抱えていると不意に体から足元への重力が消えた気がした。

その代わりすさまじいまでのGが横方向に風と共にぶつかって来た。

何がなんだか分からないままGに耐えて首を回すと、俺を封筒でも持つかのように軽々と脇に抱え、

ビルの隙間を猛スピードで移動している山田さんがいた。

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