其の名はT・Y
<<あ、そちらの大統領にも、日本の政府にも連絡済みです。えー、お勤めご苦労様でした>>

その声を聞くと、艦長はこちらに駆け寄って私から通信用のマイクを奪い取った。

<<シードッグ艦長、ジョン=ジャスティンであります、サー!ミスターアッシュハウンドとお話できて光栄であります!>>

操舵室の全員がその光景に口を開け広げた。

厳しい訓練と豪胆な人柄で知られたジャスティン艦長が、まるで訓練に来たばかりのハイティーンのボーイのように直立不動で脅えきった顔をしていたからだ。

<<あ、どうもご苦労様です。お気をつけてお帰りください>>

<<はっ!あ、しかしミスター!デビルの操縦、お一人で大丈夫でしょうか!必要とあらばこちらからクルーをお貸ししますが!>>

<<お気遣いありがとうございますジョンさん。でもまあ、このくらいなら大丈夫ですよ、はい>>

<<はっ!出すぎた真似を致しました!お許しください、サー!>>

まるでホワイトハウスの真ん中にいるかのように艦長は緊張し、声を裏返していた。

<<いえいえ、それでは、この艦と中の人はしかるべき場所へお届けしておきますので、失礼します>>

その言葉を最後に通信は切れた。

ソナー係がデビルのエンジン起動を確認した数秒後には、最大速度でデビルはこちらの捕捉出来ない距離に消えていた。

「艦長、いったいアレはなんなんですか!?」

未だ何が起こったのか把握できずぽかんとしている他のクルーを見てはっとした私が艦長に詰め寄ると、

艦長はがっくりを膝を落として搾り出すような声で言った。

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