其の名はT・Y
普通に考えたら、次のシーンは病院に切り替わって包帯グルグル巻きだと思うんだけどさ、

そうじゃなかったんだよな。

その拳は俺に届かなかったんだ。

殴られるのを覚悟して目をつぶった俺が、こない衝撃に疑問を持って瞼を開いたら、

ゴツゴツした右拳の節が俺の眼前数センチで止まってたんだわ。

その拳の少し上、手首を別の手首がつかんでてさ、目を疑ったね。

さっき俺にぶつかってつまづかせたヒョロいオッサンがさ、倍くらいある大男の全力パンチを止めてるんだから。

「なんじゃぁワレはぁ!」

そう言いながらボスヤクザは掴まれた腕を振り払おうとしたんだけど、ピクっと動いて止まってた。

で、ありえない、って顔したまま、逆の腕を振り下ろしたんだ。

俺じゃなくて、そのオッサンに。

今度はきちんと見えてた。

オッサンが

ヤクザの全力パンチを

指2本で止める瞬間を…

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