其の名はT・Y
「あの…さっき依頼がなんとかって…あれなんスか?」

俺が頭の隅に引っかかっていた言葉をぶつけると、オッサンの表情が少し明るくなった。

「おお、そうでした、実は私こういうものでして」

オッサンはスーツの内ポケットから飾り気のない皮の名刺入れを出し、そこから一枚抜いて俺に差し出した。

「あ、ども」

俺は受け取ってそれを読んだんだ。一度黙読してから意味がわからなくてもう一回、今度は口に出してみた。

「非限定請負人及び駅のクリーン推進委員会会員 山田…太郎?」

「はい、山田と申します、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

そう言って深々と頭を下げたオッサンに俺も反射的に頭を下げた。

「なんスか?この非限定云々って」

「ええと、そうですね、じゃあお尋ねしますけど役所とかで用紙の記入例って見たことありますか?」

質問に変な質問を返されて俺は困ったけど、まあとりあえずその質問自体の意味は分かるんでうなずいておいた。

「そこで見たことありませんかね?こんな名前」

そう言ってオッサンは俺が手に持った名刺を指差したんで、俺はあ~、とマヌケな声をだしちまった。

「あれ、実は有効な書類なんです」

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