恋愛成長記
「…―――…」
「…?」
(気のせい…?)
いやでも確かに…
静寂な中庭に密かに人の気配…
いや、居てもおかしくはない。
生徒数だってそれなりにあるし…
放課後に中庭でゆっくり寛ぐ人だって居る筈――…
そう思って、踵を返したその時…
ソレは聞こえた。
少し前に流行った…
(……歌……?)
間違いない…
誰かが歌っている。
高音もスルリと出るようで、声質も柔らかく、聞いて居て心地良い。
(女の…人…かな?)
歌っているのは…
凄く優しい声だし、声も高めだし…そんな勝手な事を考えつつ、私の足は上靴のままサクサクと…しかしなるべく歌い主に気付かれないように、音源に近付いて行く。
もう少し、もう少し…
(顔、見れないかな?)
――ちょっとしたミーハー心だったんだ…
校舎の影から、そうっと様子を窺う。
歌い主は足を投げ出して、空に向かって歌っていた――
伏せ目がちの長い睫毛…
形の良い薄い唇が、忙しく形を変え、そこにある金属がキラリと光る…
シャープな輪郭…
筋の通った鼻…
太陽に光るピアス…
トレードマークのウルフカット…
(う、そ…)
―――そこに居たのは…
「氷室君?!」
紛れもなく、あの氷室君だった。