異風人
次の日、威厳をもって教壇に立ったものの、吉平の目には光沢はなく、睡眠不足に彩られたうつろな面持ちであった。何時ものように、前列付近には学生は居らず、且つ、教室は疎らである。従って、このうつろな顔は、それほど学生には届いていなかった。時々あくびは出るが、口に手を当て、咳払いを装う。そして、吉平は、「波紋」という字を、黒板に大きく書いたのである。口に手を当てる回数が多い所為か、前回の講義に比べて、いくらかくぐもり声に聞える。
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