異風人
「君たちはまだ若い、従って、私よりも知識が少ないと言うべきである。私の立場から、色々なことを君たちに教授しなければならない。私にはそうした強い義務感がある。目上の人を敬い、年寄りを大切にする心が肝腎である。偉い人の話しを聞き、本を読むことによって、その心が養われるのである。目上の人は、若者を尊び、年寄りは、安堵の意を現わす。このバランスこそが、世の中を全て丸く治めるのである。君たちも、ゆくゆくは、世の中に出て、名誉、地位を得て経験するはずだ。今日、欠席をしている者は、不幸である。最高の学府で私の話しを聞き、学べるという君等は、幸せ者である。世の中には、偉い人の話も聞けず、本を読む環境を与えられない人も居る。当然君らは、その人たちの上に立たねばならない。私の講義を聞いて、大いに自信を持っていただきたい。」
吉平の講義は、電車の中の深手が災いして延々と続いた。講義の途中で、席を立つ学生もいたが、犠牲という仲間に対する責任を背負った学生にとっては、極めて貴重な時間がただ意味もなく費やされたのである。そしてやっとのこと、威厳を取り戻すための有意義な講義は終わったのである。学生に向けて吐き出した吉平は、その効を奏してか、いくらかではあるが平静をとリ戻した。そして吉平は、我ながらにして、格調高い講義をしたと胸を反らせ、威厳を振り撒いて教室を出て行ったのである。学生達の今日のノートは真っ白であった。
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