異風人

帰りの電車の中は、二つ三つ吊革が空いている程度の混雑振りであった。吉平はその吊革の一つにつかまる。吉平には、格調高い講義の余韻がまだ残っていた。その所為か、電車の中の民は皆、学生に見えたのである。居眠りをしている者、漫画の本を読んでいる者、老人、携帯電話を操作している若者、幼児、全てが学生に見えていた。そうした民を見下ろして吉平は、優越感を味わっていたのである。この優越感が、にやにやとした顔の造作となって現れる。含み笑いを浮かべて、吊革につかまっている吉平の恰好は、どこから見ても異様に映る。ちらちらと、吉平に向ける民の目の中に、それが窺える。
電車の扉が開く度に、四五人の民が下車する。その都度吉平は、笑みを浮かべ、その民達に威厳を振舞う。下車の際に、民たちは、ぴくりとのけ反り、異様な姿を露にしている吉平を避けて迂回していく。この迂回は、私に対する尊敬の念の現れであると、吉平は理解したのである。そして吉平は、自分を敬うこれらの民に、更なる優越感を露にしたのである。
頗る優越感に浸りきった吉平は、上機嫌で家の門をくぐった。広い芝生には、植え込みがある。植え込みは、職人の手によって、綺麗に整理されている。その植え込みは、玄関に通じている。代々受け継がれた吉平の家は、この辺りでは豪邸であった。何時ものように、侍女が玄関に出迎えた。