異風人
「小夜もそう思うか?」
「ええ、それはもう、ご主人様に向かって、この上ない無礼なことです」
「そこでだ、小夜に聞きたいんだが、近頃の若い女性は、皆あの程度かね?」
「何時の時代でもそうですよ、今の若い者はっていいますから」
「小夜は幾つになる?」
「六十半ばを過ぎるところです」
「そうか、私よりも十も上か。そこで今日、学生諸君に世間の常識を講義したんだが、目上の者を敬い、年配者を大切にすることは、基本的なことだとね」
「それはよく解ります。小夜もご主人様に大切にされてますから」
「そうか」と、吉平は小夜の別の言葉を待った。小夜は、そうした吉平の内心を素早く読み取った。そして、小夜は間を空けずに、
「それに、ご主人様は、何と言っても大学教授でいらっしゃいますから、お傍にいられるだけで、小夜はこの上ない幸せ者です」
「私も学生諸君に講義したところだ。私の講義を受けられる君等は、幸せ者だとね」
 ソファに深々とふんぞり返った吉平は、その姿勢からくる必然的な体制から視線の角度を下に向け、微笑を浮かべて軽く頷いて見せる。小夜も微笑を浮かべて、そうした吉平を見守っていた。
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