Night Walker
彼女は、軽く辺りを見回して、近くのアンティーク調の猫足椅子の背に、大きな花柄をあしらったワンピースが、掛けてあるのを見付けた。


「此処に掛けてあると言う事は、着ても良いと言う事ですよね」


彼女はそう呟いて、ワンピースを広げ、自身にあててみた。

仕立ても良く、生地も良いワンピースに、持ち主の品の良さが伺える。

袖を通し、身なりを整えると、彼女は改めて部屋を見渡した。
白と黒のモノトーンの部屋は、どう見ても女性の部屋には思えない。

クローゼットにテーブルセット、姿見にライティングテーブル。

そして、彼女が寝かされていたベッド。


「どうしてお兄ちゃんの夢を見たのか、不思議だったのですけれど……」


『解った様な気がします』


知らない男性の匂いが、彼女の『お兄ちゃん』を連想したに過ぎないと、彼女は結論を見いだし納得して、行動を開始する。

『取り合えずは、この部屋の主をさがさなくては……』


見回した時に見付けた重厚そうな扉の前に行くために、椅子の側にあったスリッパを引っ掛け 、パタパタと扉に向かう。

そっとドアノブに手をかけると、回して扉をゆっくりと開け、外へ出た。




後ろ手で扉を閉めて回りを見ると、別に二つの扉と、上と下に行く階段があった。

二つの扉からは人の気配は無く、上か下かで迷う。


『普通は下、ですよね』


そろりと……しかし一歩一歩確かな足取りで、階段を降りていく。

降りきった所に磨りガラスの扉があり、そこから男女の話し声が微かに聞こえてきた。

そっと扉を開けると、はっきりとした会話が聞こえてきた。


「いーい。そこを動くんじゃ無いわよ」

「いや、大した傷では無い。放っておいても何ら支障は無いが……」

「馬鹿言わないの! 化膿したら厄介でしょ」


有無を言わせぬ感のある女の声と、落ち着いた男の声。

ゆるりと開けた扉が、軋んだ音をたてて開いて、男が振り返った。


「あの……」


怖ず怖ずと呼び掛けた彼女に、振り返った男は優しい笑みを彼女に見せた。


「よかった。気が付いたようだね」


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