Night Walker
ソファーの背に左腕を預けて顎を乗せ、じっと見つめる瞳に引き付けられて、彼女は目を逸らす事が出来ない。


『この人は、人間なの――?』


冷たい美貌に圧倒されて、彼女はポカンと津那魅を見つめていた。

自分が津那魅に呼ばれている事にも気付かない程、ほうけていた彼女は、薬箱を抱えて戻った玲子に声を掛けられて、ハッと我に返った。


「あっ! 目が覚めたのね。コイツの手当が済んだら紅茶入れたげるから、そこにすわってて」

「あっ! はっ、はい!!」


慌てて指示された場所へとやって来て腰を下ろした。

俯きかげんの顔を上げて、正面を見ると、津那魅の上半身裸の姿に彼女は、「キヤッ」と声を上げて顔を覆った。


「ん? 初々しい反応。玲子ちゃんには無い反応だから新鮮だねぇ」


おっとりとした口調で、的外れな感想を津那魅に述べられて、彼女は津那魅が見える様、手を口元迄ずらしポカンとした顔を見せた。


「初々しく無くて悪かったわね」


怒り気味な声音を隠す事無く、玲子が用意した消毒液を綿に染み込ませ、津那魅の傷を的確に捉え叩き込んで行く。

肩の噛み傷に、背中の引っ掻き傷。

肩の傷は噛み切られる寸前のようで、背中の傷は無数に有る。

『爪痕?』


何も覚えていない彼女は、この傷の犯人が自分だと気付いていない。

苦しむはずの彼女を、ジャケットとコートで包み、抱き抱えた結果がこうなるとは、津那魅も想像出来なかった。


「あの……」

「ん? 何」


傷の痛みが有るのかどうか、解らない程度の津那魅の反応。


「その傷はいったい……」


覚えていない彼女にとって当たり前の反応に、手当てを受けている津那魅は、俯けていた顔を上げた。


「さすがに染みるんですよね。話は落ち着いてからで良いですか?」


顔をしかめつつ彼女に問い掛け直す津那魅は、手当ての乱雑さに抗議の声を上げた。


「玲子ちゃん。もう少し優しくお願いできませんか?」

「優しく? 贅沢言わないの! あたしが気付かなきゃ、手当てすらしようとしなかったくせに」


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