Night Walker
憤慨してみせる玲子に、肩を竦めて見せた津那魅は、肩に走る鈍い痛みに顔をしかめた。

彼は玲子をなだめる為に、紅茶を入れようとして、茶器を取り損ねて危うく落としかけた。

そのさいに、玲子に傷の事がばれてしまい、今に至っている。

玲子は、ちゃんと話さなかった彼に怒りを感じ、自然と手当てが乱暴になっていた。

扇の家から、彼の役に立つよう言い聞かせられて育った玲子にとって、津那魅の変化を見つけ出す事は、困難な事ではなかった。

消毒に傷薬、包帯と手際よく済ました玲子は、薬箱をかたずけ、津那魅に新しいシャツを手渡し、後片付けの為その場を後にする。


「紅茶入れて来るわね」


と、言葉を残して。

上半身包帯だらけにさせられた津那魅も、身嗜みを整えて来ると彼女に一言断って、磨りガラスの向こうに消えて行った。

一人取り残された少女。


『結局何も聞けませんでした。怪我の事や、私が此処に居る理由……』


「私は何故此処に居るの? 自分の部屋で寝ていたのに……」

「ふーん……なーんにも覚えて無いんだ……」


俯いて呟いた言葉に、返事の様な言葉が重なって彼女はハッと顔を上げた。

そこには、先程磨りガラスの向こうに消えて行った筈の津那魅が、音も無く扉にもたれ掛かっていた。





彼女が座るソファーの真向かいに腰を下ろした津那魅は、明るい口調で先ずは自己紹介からと 言って名を名乗った。


「扇 津那魅、探偵です。よろしく」

「あたしは、扇 玲子よ」


紅茶を持って来た美女が、彼女と津那魅の前に、琥珀色の液体が入ったカップを優雅な手つきで置くと、にっこりと笑った。


「あっ……私、神宮寺 舞、と言います」

「神宮寺……」


彼女――舞――の名字を聞いた津那魅が何かじっと考え込む。
舞も気になった事が一つ有って、津那魅の横でお茶を飲む玲子に素朴な疑問を投げかけてみた。


「あの、扇さん。一つ伺っても宜しいですか?」

「あ……あたし?」


玲子を見つめた舞が、コクンと頷く。


「ややこしいから玲子で良いわよ」


笑って答える玲子に、舞がした質問は。



< 15 / 42 >

この作品をシェア

pagetop