Night Walker

バンパイアの花嫁

高鳴る胸を両の手で押さえ少しでも落ち着く様に試みる。

そんな舞の心の動きを知ってか知らずか、津那魅は至極冷静な態度を崩さない。


「よく聞いて下さい。舞ちゃん、君は人の中ではとても珍しい部類に入ります。この帝都に生きる吸血を糧(かて)とする者達にとって君は、花嫁と言う名の最高の食糧と言う運命を背負ってしまった」

「私が？　変な冗談は止めて下さい」

「冗談？　本当にそう思いますか？」


津那魅の声は怒るでもなく淡々として無機質だった。

舞の脳裏に、初めて津那魅を見た時の記憶が甦る。


「吸血鬼なんて私には……」

「縁が無いとでも？」


津那魅が舞に代わって答えた言葉に彼女はこくんとうなづいた。

そんな舞に、津那魅は小さく溜め息を付くと、


「舞ちゃん、君はNight Walkerを知っていますか？」


そう問い掛けた。

普通に学校で教えられる言葉を津那魅の唇から紡がれて、舞は思わず硬い声音で答えた。


「それ位、知っています」

「あぁ……。気にさわったのなら申し訳無かった。馬鹿にしている訳じゃ無いんだよ」


舞の声の硬さに、津那魅は柔らかく謝罪の言葉を口にして、話しを続ける。


「舞ちゃん、君は彼等に会った事は有りますか？」

「ありません。そんな恐ろしい……」


自分の肩をかきいだいて、舞はプルッと震える。

それを見ていた津那魅の瞳が、哀しみに陰るのを舞は気付いていない。

玲子は、黙って二人の話しを聞き続けていた。


「彼等は、この帝都のどこにでも居ますよ。舞ちゃんが気付かないだけで、すれ違う事もあったかも知れません」

「私は夜半に出歩く様な事はしません！」


舞の大きな声に、津那魅と玲子は驚いた表情で舞を見た。


「私……」


思わず怒鳴ってしまった事に恥ずかしくなったのか、舞の声がうわずって震えている。

津那魅は、舞に気取られない様に息を吐くと、慎重に言葉を探した。


「君が、夜に出歩く様な娘さんでは無いと言う事は、話しをしていて良く解りますよ。私が言いたいのは、昼間にすれ違っていると言う事」

「ひっ……昼間、ですか？」