Night Walker
「それは誉め言葉?」


舞の言葉に、津那魅はクスッと笑うと、舞は自分の言動に、歯が浮く様な恥ずかしい言葉がある事に気付き、頬を赤らめた。



『私ったら、すぐ思った事を口にして……馬鹿ね……。けど、津那魅さんから見れば、人に見えると言う言葉は、誉め言葉になるのね……あっ、でも綺麗な男の人とも言いましたわ……』


そうとめどなく考えて、舞はその表情をクルクルと変えた。


『表情が良く変わる……』


津那魅の脳裏に、同じ様に笑う少女の顔が浮かんで消える。

そんな己の未練を嘲笑い、津那魅は舞を見つめ直した。


『誰かに似ていると思えば……成る程……あれに似ているか……』


津那魅を粛正者にした張本人。

彼女は、死した今でも津那魅をがんじがらめに縛り付け、粛正者と言う立場から解放しない。


粛正者の命は、主である巫女と共に在ると言うのに、彼女は自分と共に彼が滅ぶのを是(ぜ)としなかった。


『生きていてほしい』


それが、彼女の想いであり、願いだった。


舞はそんな彼女に、容姿が良く似ていた。


津那魅は軽く息を吐くと、


「どこまで話したかな……」


と囁くように呟いて、「あぁ、そう……」


「私もNight Walkerだと言った所までだったね」


と、にこやかに笑って言った。

まるで、わざと作った様な笑い方。

心の伴わない笑いだった。




「まぁ……至極尤もな話ですが、吸血鬼から大事なものを奪う訳ですから、正面(まとも)な人間では太刀打ち出来ませんよ」


新しい紅茶を玲子に入れてもらった津那魅は、一口すすり息を付いた。

舞は今までの経緯を津那魅から聞いて、目を白黒させていたが、何とか気持ちを静めると、


「助けて下さって有難うごさいました」


ペこりと頭を下げた。

だが、表情は暗い。


「一つ聞いても良いでしょうか?」


舞の問い掛けに、津那魅はうなづくと、


「私が答えられる範囲でなら、なんなりとどうぞ」


そう言って、脚を組み替えた。


< 19 / 42 >

この作品をシェア

pagetop