Night Walker

神宮寺と粛正者と犬

舞の父親とは、もう12年の付き合いになる。

会う事はほとんど無くなったが、警部だった頃からの付き合いで、颯は、警察と津那魅との橋渡し役になっていた。

津那魅の仕事のほとんどが、警察の依頼であった為だ。

そんなおり、嫁の実家が華族だった為、颯は、婿養子に入った神宮寺の家で、一粒種の娘の誕生日パーティーに津那魅を呼び出した。

新聞記者でもあり、仕事の手伝いを買って出てくれている友と共に、神宮寺の家に顔を出した津那魅は、颯にとんでもない事を吹っかけられて閉口した。


「そう……颯は……、君の父親は、とんでもない事に、私に『娘が年頃になったら嫁に貰ってやってくれ』と、言うのですよ全く、何を考えているのだか……」


舞の父は、「冗談も休み休みにして下さい」と言う津那魅の言葉にもめげずに、今だに何かにつけて津那魅に嫁取りの話を吹っかける。

津那魅は、颯が己に執着する意味が、今だに分からなかった。


「よ……よめ……? って、私が?」

「人違いで無ければ、貴女ですね。こんなふうに舞ちゃんに再会するとは、私も予想していませんでしたが……」


変な方向へ話が向かっている事が舞にも解る。

取って付けた様な、ありえない出会い。

神様の悪戯か、はたまた運命の出会いか、不自然な出会いに何か計り知れない大きな力を舞は感じ取って、はたと気付いた。


「再会……って言いませんでした? 今」

「? 言いましたよ。それが何か?」

「私、貴方とは今日が初めて……」


舞の不思議そうに頭をひねる姿を見て、津那魅は「あぁ……」と 呟いた。


「あの時は、舞ちゃんもまだ幼くて、覚えて無いかも知れませんね。迷子の君を屋敷まで送り届けたんですけど……仕方ないですね」

「えっ……!?」


『それって……まさか?』

期待と驚きが、ないまぜになった顔つきで津那魅を見る舞に、彼は怪訝そうな顔をしつつも、


「取り敢えず、君の父上と連絡を取りましょう」


そう言って電話を掛ける為、立ち上がった。


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