Night Walker
「待って! 津那魅さん!」


2、3歩足を運んだ津那魅を、舞が上ずった声で呼び止めた。

その時だった。

物凄い音と共に入口の扉が開き……、壊れた。

扉の蝶番がひきちぎれ、ガタンと斜めに傾く。

飛び込んで来たのは、筋骨逞しい津那魅よりも頭二つ分は高い男だった。


「つっ…つなみぃぃ〜! 」

「…………」


入って来た男を、津那魅はあからさまに嫌な顔をしてみせて迎えた。


「君は……、何故まともに扉を開ける事が、出来ないのでしょうね」

「んぁ? 扉?」


慌てた男は、己の入って来た扉を見て、「あっちゃ〜」と申し訳なさそうに呟いて罰が悪そうに頭をかいた。


「ところで津那魅。あのさぁ……急で悪いんだけど、お金貸してくんね?」


罰が悪そうにする割に、反省の色の無い男。

これに事欠いて、金の無心にやって来るとは、何を考えているのやら。


「昨夜の飲み代も、私が支払った記憶が有るのですが……仁」


仁と呼んだ男を睨みつけ、津那魅は冷たい声音で言い放つ。


「悪いって思ってんだけどさー、全財産取られちゃってさー。オレ、今一文無しなんだよ」

「何やってるんです。君は……」

「でも、つーちゃん、オレの事見捨てないよな? 昔馴染みの親友だろ?」


津那魅が仁と呼んだ男。

そいつが掌を顔の前で合わせて、津那魅を拝みたおす。

ハラハラと一部始終を伺っていた女二人を、津那魅は横目でチラ見して。

『はあっ』と、溜め息をついた。

興味津々と言う態度を隠さない玲子と、不安そうに見ている舞。

顔には、『助けてあげて』の一言がありありとしている。

そんな中、津那魅は気を取り直すと仁に問い掛けた。


「立ち話も何です。座りましょう」


津那魅は仁にソファーに行くように促すと自分は壊れた扉迄行き、ズレた扉を元の位置に戻すとズレない様に鍵を掛けた。

そして扉を留めている釘の飛んだ蝶番を見ると、壊れた蝶番に人差し指をあてがい目をすがめて指先に集中した。

鉄の焦げる臭いが部屋に漂う。

蝶番はあっと言う間に壁に溶接されていた。

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