Night Walker
「とりあえずバイトの仁君、君には舞ちゃんのガードをお願いします。あんな夜中に女性を引っ張り込める程、体力が有り余っているのですから、吸血鬼の一人や二人、どうって事無いでしょう。頼みましたよ」

「えっ! ちょっとつーちゃん!?」


有無を言わせぬ津那魅の口調と視線に、仁は開いた口が塞がらない。


「あの……津那魅さんは……」


ずっと黙って成り行きを見守っていた舞が、不安気な言葉を津那魅に投げ掛けた。


「ちょっと野暮用です」


舞に茶目っ気たっぷりの微笑を投げ掛けて、津那魅は舞の頭をぽんぽんと叩いた。

よくあるいい子いい子の仕草。
舞にとって、まるで子供扱いの津那魅の態度に、心が不満だと講義の声を上げる。

そんな態度で接してほしく無いのに、ちゃんと自分を見て欲しいのにと、吐き捨てる場所の無い気持ちを抱えて、舞ははた、と正気に帰った。


『私……何を怒っているのでしょう……。津那魅さんに子供扱いされて……私……津那魅さんに何を求めているのかしら……あの人が、思い出のお兄ちゃんだと知ったから?だから嫌……なの……?』


自問自答する舞の心は、答えを見つけ出せずにいる自分自身によって、翻弄させられる。

寄せては引く波の様に、揺らめき立つおのが心に戸惑う舞。

何か別の意思が自分に生まれた様な感覚に、舞は不思議と嫌な気持ちにはなれなかった。


『私の事なのに、自分自身が解らないなんて、不思議だわ』


心の奥底から沸き上がる思いを持て余す舞は、小さく首を振って忘れようと努めた。

そんな舞の様子を、津那魅は目敏く見つけて、声をかけた。


「どうかしましたか? もしや、仁では不安ですか?」

「いえ……そんな……」


考えていた事と違う言葉を津那魅から聞いて、舞は慌てて否定の言葉を口にする。

問題はそこには無いのだから、当たり前と言えば当たり前か。


「あんなのですが、役にはたちます。君の事も全力で守るでしょう。心配いりませんよ」

「はい」


津那魅にそうまで言われて、うなずいた舞は、はにかむ様に笑った。

舞の様子を見て安堵したのか、津那魅は立ち上がると舞に言った。


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