Night Walker
「仁もナイトウォーカーの端くれです。彼の心配はしなくていいですからね。しっかり使ってやって下さい」


津那魅の意地悪な物言いに、舞の笑い声と仁の抗議の声が重なった。


「ひでぇ……つーちゃん……。もうちっと扱い良くても、ばちあたんないと思う……」

「ん? 待遇は良いはずですが? 何か文句でも?」

「おーありなんだけど……」


ムスッとふて腐れる仁に、津那魅は美麗な顔をしかめると、言った。


「美人で聡明な少女の護衛より、新宿のドラクの所に使いに行きたいとは意外でしたね。仁」

「ゲッ! あのサディストんとこか!?」


仁は、津那魅の言う人物の名を聞いて、身体をブルッと震わせた。


「まぁ彼が、意地が悪いと言うのは確かですね。ですが、吸血鬼に詳しいのは彼しかいませんし……。そうだ! 何なら仁、君が会いに行きますか?」

「そっ……それだけは勘弁して……」


まるで、一回りちじんだかの様に、見た目小さくなる仁に、津那魅は追い撃ちをかける。


「仁は、ドラクにかかれば、ただのわんこ扱いですからねぇ……纏まる話しも纏まらないでしょうね」

「あの……、津那魅さん。今お話している方は……」


二人の会話に、割って入る形になった舞には、訳が判らず話についていけない。

なので、首を傾げつつ津那魅に問いかけてみたのだ。


「ドラクの事ですか?」


こくんとうなずく舞に、津那魅は立ちかけていた腰を、再びソファーに埋もれさせた。


「そうですね……この帝都に住む吸血鬼を束ねる、吸血鬼の長ですよ」

「吸血鬼……」


思わず舞の顔色が悪くなる。

操られていたので、ほとんど覚えていないが、魂の奥に染み込んでしまう程の恐怖が、言葉に反応して込み上げて来る。


「怖い……」


思わず口走った思い。

舞にとって、あの名も知らぬ吸血鬼は恐怖の対象でしかなく、自然と身体に奮えがくるのも、合点がいく。

津那魅は彼女を見て、そう察するとそっと舞の手をとり、優しげな声音で囁いた。

舞を安心させるために。


「大丈夫。君の事は私と仁が護るから。決して奴には渡さない。だから、安心して……」

「津那魅さん……」


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