Night Walker
アッサリと恐ろしい事を口にして仁は真顔で舞を見る。

舞は、恐怖で震えていた。


「大丈夫だって。誰にも危害は加えさせないし、俺と津那魅がついてる。あれで津那魅は怒らせると怖いんだよ」


とぼけた声音で舞を励ます仁が逞しくて頼もしく見えて、彼女ははにかむ様に笑う。

その笑顔に仁は、初めて舞の思いっきり笑った顔が見て見たいと思った。




電車は、ゆっくりと郊外の町を離れてゆく。

まだまだ開発中の都心、渋谷にある町広尾へ、二人を乗せた電車は向かっていた。

舞の自宅が広尾にあった為なのだが。

そんな二人の様子を、遠巻きに伺う女が居るという事に、彼らは気付いていない。

女が舞を見て、ギリギリと奥歯を噛み鳴らす。


「あの女が、主(あるじ)の花嫁なのか?」


舞を睨みつける瞳は、眼光鋭く赤みをおびている。


「まだ子供ではないか! だがこの香しいかおり……主が惹かれるのも無理は無いのか……だが……」


悔しげに嘆く女は、主の言い付けに従いずっと舞を見張っていた。

さらえとも、接触しろとも、ましてや殺せなどと言う命令を、女はその身に受けてはいない。

だから、

目の前の舞を、八つ裂きにしてやりたいと思っていても、彼女に手出し出来ない。

女は、怒りをあらわにした瞳で舞をねめつける。


『主の花嫁になど決してさせない……』


女が、舞たちの遥か後方を歩き出す。




彼女と同じ電車に乗る為に。




津那魅がここに居れば、きっと女に気付いた事だろう。

そして事態は、別の方向へと向かって行った事だろう。

だが彼は、この場にはいない。


女の魔の手が舞に忍び寄って来ている事に、二人は全く気付いていなかった。


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