Night Walker
仁が言った通り、まさしく狐と狸の化かし合いの様相を呈していた。


「お前の所の新入り、人を襲ったよ」


これまたさらりと本題に入る津那魅の態度には、『お前と無駄話をする気は無い』と暗に匂わせるように終始徹していた。

柔らかな態度と、丁寧な言葉。

冷たい態度と、刺す様な威圧感の有る言葉。

どれが、本当の彼なのか。

二つの顔を持つ魔人は、粛正者の顔を崩さずに、吸血鬼の長と対峙する。

だが、吸血鬼もその程度では怯まない。


「んー。あいにくと彼自身は、まだ私の所に挨拶に来てないんだ。使用人は来たけれどね」

「管理がなって無いな。まだまだ若いひょっこだろう。舐められるぞ」

「ははー。手厳しいね、津那魅君は……」


頭をかいて苦笑いする医者を津那魅は態度を崩さず、ねめつける。

そんな彼の態度に、医者は肩を竦めた。


「そんなにも、粛正者としての君を駆り立てる理由は、一体何なのだろうね」


ヌッと津那魅に顔を近付けて、その瞳に柔らかな光りを湛える。

瞳に力の有る吸血鬼。

普通ならば、その瞳の虜となるが、もう既に、違う力に支配されている津那魅には、吸血鬼の力は通用しない。


「今だ、あの女に支配され、操られている粛正」


者、と言いかけた医者の鳩尾に入る、力が込められた拳。

医者も、油断した訳では無い。

彼以上に、津那魅の動きが早く、力が強いだけの事。


「いらぬ事に首を突っ込まない方が良い。お前は聞かれた事だけを答える方が得策だぞ」


怒りを孕んだ津那魅の声。

冷静な彼が、剥き出しの感情をあらわにして見せた瞬間だった。

痛みに、腹を抱える医者を冷たく見下ろす津那魅に、彼はふざけた態度を崩さぬまま、津那魅と会話を続けようと試みる。


「いてて……本当につれないねぇ。私がこんなにも、君の事を思っているのに、当の本人からはこんな仕打ち……」

「おい。戯れが過ぎると思わないか?好い加減にしないと、再生不可能になるまで燃やすぞ」

「それだけはごめんこうむるよまだ命は惜しい」


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