Night Walker
女が、二人を見失ったかと思い、飛び込んだ場所は、まだ建設中のビルの工事現場だった。

そこには、男がひとり。


少女の姿は、何処にも無い。

女がギリギリと、唇を噛む。

何処へ向ければ良いのか、解らない怒りと憤り。

それを持て余した女は、目前の仁に向けて、イライラを打ち放った。


「あの小娘を何処へやった!」

「ん〜っ? 小娘って、舞ちゃんの事かなぁ?」

「お前っ……、とぼけて無いで、さっさとお言い! そうすれば、命は助けてあげる」


最初は荒く、語尾に行く程、甘えた猫撫で声になる女に、仁がにっ、と笑う。


「そんな風に言って……。殺気ぷんぷんなんだよな……吸血鬼のお姉さん。俺がそんなアンタに、彼女の居場所、教えるわきゃ無いっしょ」


仁の言葉に、女が舌打ちをして顔を歪めた。


「しょうがないわね……なら先に、君の方を八つ裂きにしてあげる。大丈夫よ。貴方の血は、あたしが美味しく頂いて、身体は、グールの餌にしてあげるから」


それが始まりの合図なのか、女は仁に反論する暇すら与えず、右手の5本の指の爪を伸ばし、彼に襲い掛かった。

それを上手く交わす仁に、女が間髪入れずに、細く長い脚で、彼の鳩尾に蹴りを叩き込む。


「つ〜、今の効いた〜っ。ちい〜っと、油断したわ〜」


女相手と思ったのか、はたまた何なのか、余裕で交わそうとした仁は、逆に女にしてやられていた。

痛そうに、腹を抱える仁だが、実は、それ程でも無かった。

彼は、狼男なのでタフに出来ている。

だから、ダメージが低くても当たり前、と、言えばそれまでで。


「俺、女相手にやり合うのは、ベッドの中だけと決めてたんだけどさぁ……ま、しょうがねーわな……」


そう言って、反撃を開始した。





狼に変身する事無く、女に突進する仁のフットワークは、意外と軽く、軽快なリズムとなって、左右の手足を繰り出して行く。

右、左、回転して、左足。

後ろに避ける、女の行動を見越して、2歩前に出、女の腕を蹴り上げようとする仁。

だが女も、軽くいなし、鋭く長い爪を屈指して、仁のシャツを切り裂く。
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