Night Walker
強さは、二人互角に見えるが、お互い余裕も有ると、見え無くはない。


「やるねぇ〜。吸血鬼の姉ちゃん!」


まるで、鼻唄を歌う様なノリで話す仁に、何時しか女も、微笑みを見せていた。


「貴方も、思ったよりやるわね」


そう言うと、女は平然とした態度で口角を吊り上げ、異様な笑みを、仁に見せ付けた。


「でも、まだまだ甘いわよ」


女の動きが変わった。

今までとは違う、切れのよさとスピード。

そこから繰り出される右腕の技は、仁のスピードを上回り、圧倒したのだ。

軽い身体の女と、細身とは言え男である分、仁にはどうしても、ウエイトで分が悪かった。


『さすが、吸血鬼。スピードでは奴が上か……』


間一髪で避け続ける仁だったが、少しづつ、女が優勢になってゆく。

剥き出しの鉄骨や、セメントの壁を、上手く使って女の攻撃を交わすが、その手も、そう何度も使え無い。

武器は己が身体のみ、という仁には、吸血鬼相手は、荷が重かったか。

さすがに、疲れが見えはじめた仁の隙を、女は見逃さなかったのだ。


「さあ、おしまいよ!」

「!!」


女が繰り出した爪が、仁の心臓を捉え、串刺しにした。

と、誰もが思った。

当事者の仁でさえ、覚悟を一瞬で決めたのだ。

だが、違った。

女が、驚愕の眼差しで、己の爪を見ていた。

そこに有る筈の物が。

仁を、串刺しにしている筈の爪は、すっぱりと鋭利に切られ、地面にバラバラと無造作に落ちていたのだった。




「やはり……わんこには、吸血鬼は荷が勝ちすぎましたかね」


柔らかな物腰と解る、緩くて優しい声が、紡ぎ出すのは、辛辣な言葉。

振り向いた仁の見た先には、黒いコートに黒い服、黒髪の、全身黒で統一された青年が佇んでいた。


「いーとこ来たよ〜! つーちゃん。ってか、もしかして、ずぅーっと見てた……とか?」


目が合った青年を、仁は津那魅と認めて、安堵の声を上げたが、青年の姿は、仁やこの場に隠れている舞の、良く知る姿では無かった。

頭髪が黒い。

ただそれだけの違いなのに、何と印象の変わる事だろうか。

津那魅の口角が、笑みの形に上がる。
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