Night Walker
きびすを返し彼は公園の入口まで戻ると、中へと踏み込んだ。

暗闇の中、やけに大きく浮かぶ月の明かりが、林の様な公園を隅々まで照らす。

男は、目前の遊歩道目指して歩みを進めた。

中に入って見ると、あれ程気になっていた『嫌な予感』も為りを潜め、ただ草むらに潜む虫の鳴き声だけが耳に響く。


『取り越し苦労……だったかな?』


落ち着きを取り戻した心臓の上に手を置き、鼓動を感じる。

規則的にゆっくりと打つ心臓は、何事も無かったかの様に鼓動を刻み続けていた。

気を取り直し、家路へと向かう。

別に誰が待っていると言う訳では無いが、時刻は丑三つ時を過ぎている。

ただ、早く家に帰って眠りたかっただけだった。



公園の中を歩き出して、さほど時間が経っていなかったと思う。

緩やかにそよぐ風が、酒でほてる身体に心地好いと感じていたその時、その風に乗って微かに女の悲鳴が、聞こえて来た。

気がした。


『ん? 気のせいか?』


立ち止まり、耳を澄ませる。

聞こえ無い声に、やはり気のせいかと思い返した彼は、再び歩き出した。

その時だった。


女の甲高い悲鳴と共に、何か解らない物が、帳が降りたように公園全体を覆い隠した。

目に見えない何か。


『マジ!? これは……結界か!?』


辺りは変わった様子など微塵も無い。

あえて変わった所を上げるとしたら、風が止んだことだろうか。


『誰だ?』


女の悲鳴と、直後の結界。

その二つが示唆する物は。


『捕食行為か!』


Night Walkerは、人を傷付けてはならない。

それは、帝都にいる全てのNight Walker達の禁忌。

この禁忌を犯す者、理由の遺憾に拘わらず、粛正されなければならない。


彼が、片手で顔を覆う。


『馬鹿が……何故人など……』


彼こそが、Night Walkerの法の番人。

唯一の粛正者。

法を犯した悪しきNight Walkerを狩る者。


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