Night Walker
沈鬱に彼の顔が歪む。

彼の役目だとは言えつい先日も、5人の幼女をさらい食い散らかした鬼女を、その手で粛正の名の元に葬ったところだ。

大切にしていた我が子を事故で無くした憐れな女だった。

女の子供に命を救われた5人の幼女は、鬼女となった女に喰われた。

子供が命をかけて護った幼子は、子供の母の手にかかって幼い命の灯を散らした。

子供の命は何の為に散ったのか。


あまりにも虚しい事件だった。

彼は、俯けた顔を上げ満天の星の中で人一倍大きく輝く月を見上げた。

「行くか……これ以上哀しい罪を重ねさせ無い為にも……」


彼が、その一歩を踏み出す。

大地を蹴って踏み出した一歩。

それは、これから彼の敵になる、青年の耳にも届いていた。









「我の張る結界に、いらぬ虫が掛かった様だよ」

若い男が、抱え込む女に向かって囁いた。

淡い金髪を短く刈った髪に、赤い瞳。

ハッとする程の美貌を持つ青年は、今で言う所のジャニーズ系。

女の子受けする綺麗系容姿だ。

その彼に大事そうに抱えられている女は、まだ少女と呼んでも良い位の幼さを残した、これまた可愛らしい容姿の美少女。

青年が虚ろな瞳の少女の首に、形の良い唇を落とし紅い花を散らす。


「あ……」


まともな思考を絶たれた少女の唇から、わずかに甘い喘ぎが発っせられる。

青年がその様子に、満足そうに妖艶な微笑みを作る。


「我を酔わせる甘い薫り。まさかこんな島国で我の花嫁を見つける事に成るとはな……。何たる偶然」


青年が少女の首から顔を上げる。

紅い唇が直一層紅く濡れそぼり、唇の端からわずかに紅い物が滴っている。

彼が紅い物をペろりと舐め取りニッと笑う。

唇から覗く犬歯は、不釣り合いな程に大きい。

少女の首には、穿たれた様な二つの傷痕。

その傷からは紅い血が流れていた。


「極上の味と薫りだ……」


青年の囁きは、少女には伝わらない。

目をつむり、ダラリと身体を青年に預ける少女は、とうの昔に意識を手放していた。


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