Night Walker
点々とした街灯の明かりが、月明かりと共に広く開いた広場を照らす。

その広場の中央に立つ粛正者、名を扇 津那魅(おおぎ つなみ)と言う。

彼が、月を仰ぎ見る。

街灯の上、月を背にして女を抱えた男が立っている。

月の逆光で男の姿は闇の塊にしか見えなかったが、細身の長身だと言う事はシルエットでも伺い知れた。

ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。

血の香りに混じって、ふっと香る甘い香りに津那魅は、有る事を思い出した。


『吸血を好む者が虜になる血が有ると、昔聞いた事がある……この匂いは、それか……』


男を見つめながら津那魅はそう考え、美麗な顔をしかめた。

津那魅の顔を見て、彼の変化に気付いたのか、街灯の上の男が可笑しそうに笑いながら問うてきた。


「ほぅ……お前この匂いが分かるのか?」

「因果なものでね。鼻は異様に聞くんだ。まぁ、それがどれ程お前達にとって、価値のある血でも、私は飲みたい等と思わないがね……」

「ほぅ……我の事、見抜いているか……」

男がニイッと歪んだ笑いを見せる。

整った顔がどこか異様な歪みを見せると、普通の人間なら恐怖にさらされ腰を抜かすか、這う這うの体で逃げる。

だが津那魅は違った。

百戦錬磨の粛正者。

この程度の脅しなど、彼にとってはどこ吹く風だ。


「私に脅しは効かないよ。速やかにその御婦人を渡しなさい。君のやっている事は捕食行為だろう。人を傷付ける……それはこの国では重犯罪なのだよ」

「無理な要求だな」


簡潔に即答する男に、津那魅は表情を変えないまま涼しげな顔をして言う。


「貴方は、その娘を殺し兼ねないでしょう? どうやら合意の上で貴方と共に居るのではなさそうですし……」


そう言う津那魅が、男に抱えられている少女を見ると、その姿はパジャマに素足。

どう見ても、拉致られたとしか良いようがない。

中には確かに、合意で人外の者の側に居る者もある。

でもそう言う物好きは何等かの意思を持って、この場に臨んでいるはずなのだ。

でなければ、愛する者が粛正者に命を狙われるのだから。

こんな風に、意識を手放しているはずがない。

津那魅は確信していた。


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