Night Walker
彼女は彼のパートナーではないと。


「その御婦人は、貴方のパートナーではありませんね。そして貴方も、この国に来てまだまもない。今回はその御婦人を返して頂ければ、この事は無かった事にしましょう」


津那魅はそこまで話して、男の様子を見た。

聴いているのか、いないのか。

男の反応は無い。

津那魅は、そのまま話を続けた。


「新宿に、貴方と同族の方がいます。彼はこの国での、吸血を食とする者の世話役です。その者と合い、この国でのルールを学んで下さい」

「嫌だと言ったら? この女は我の花嫁だ」

「貴方の一方的な気持ちでしょう。吸血鬼。彼女の意思を確認していませんよ」

「そんな物、必要無い。問題も無い。なぜなら、この女はもう我の虜だ」


男の言葉に津那魅は肩を竦める。


「それは合意とは言いませんよ。私は素面(しらふ)の彼女、自らの言葉しか認めません」


きっぱりと言い切った津那魅に、男は首を傾げた。

何が問題か解らないらしい。

「とにもかくにも、その御婦人を私に渡して貰います。その女性を家に帰す義務が私には有りますから……」

「何故お前が、そこまで我が花嫁を気にする?」


その心底、不思議そうな男の問い掛けに、津那魅は自嘲気味な笑みを唇に刻み、答えを口にする。


「私は、この帝都に住む人外の者――Night Walker――の法の番人。人とNight Walkerが共存する為の法を守り、罪を犯したNight Walkerを罰する事を義務付けられた者。そして此処では、お前もNight Walkerと呼ばれる者の一員。この国の法に従わなければ成らない者だ」

「嫌だ……と、言えば?」


男の朱い瞳が鋭く光る。

津那魅は、それを見逃さ無かった。


「滅びて頂きます。粛正の名の元に」


津那魅の言葉に、男は嘲る様に笑う。


「ならば滅ぼしてみるか?」


その言葉と共に、二人の男が同時に動いた。

男が女を抱えていた腕を開くのと、津那魅が走り込むのがほぼ同時。

真下へと落下する女をギリギリで受け止めて、瞬時に後方へ移動する。


< 8 / 42 >

この作品をシェア

pagetop