月と太陽の事件簿5/赤いランドセル
桜舞う季節
TVでどっかの誰かが言っていた。

一年に四季があるというより一週間に四季があるようだと。

あたしはうまいことを言うなと感心した。

たしかにこのところ寒暖の差が激しい。

先週のあたしはセーターの上にコートを羽織っていたが、今日のあたしはしまい込んだ夏物のことを考えている。

まったく、4月に夏日ってなんなのよ。

陽気に踊らされてるのは人間だけではないようで、桜たちもあわてた様に咲き始めた。

この陽気に惑わされないのは、あたし日野麗実のイトコ、月見達郎だけだろう。

今日も今日とて達郎は、黒いスーツ姿であたしの前に現われた。

「もう満開だな、レミ」

達郎は桜を眺めた。

整った顔だちに微笑みを浮かべながらつぶやく様は絵になってる。

一瞬、強い風が吹き、桜の花びらが舞った。

けっきょく今年も花見には行けずに終わりそうな気がする。

警視庁捜査二課に所属する身とはいえ、人並みに桜を愛でる権利ぐらいはあるハズだ。

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