月と太陽の事件簿5/赤いランドセル
足跡も残していないし、教授宅へ出入りしたのを誰かに見られた覚えもない。

たとえアリバイ工作を見抜かれたところで捜査当局が自分を捕まえられるはずがない。

自分は証拠を一切残していないのだから。

実際、午前中に聞き込みにきた女性刑事は、自分の証言になにひとつ口をはさめぬまま引きあげていった。

美人だったのでもう少し相手をしてやりたかったと思ったほどだった。

今後も同じ証言を続けていけばいい。

舟本がそのように確信した時、玄関のチャイムが鳴った。

ドアレンズをのぞくと、外に立っていたのは、先ほどの女刑事だった。

名前はたしか日野とかいったか。

パンツスーツが平均以上のスタイルによく似合う。

美しい顔のパーツの中でも、切れ長の目が印象に残っていた。

いかめしい面をした男くさい刑事なら2度と御免だが、こんな刑事なら何度来られても大歓迎だ。

「午前中はどうも」

ドアを開けると、女刑事が会釈をした。

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