月と太陽の事件簿5/赤いランドセル
ああ、宮仕えの身はつらい。

「桜といえばむかし婆ちゃんに聞いた話なんだけどさ」

達郎が舞い散る花びらを眺めて言った。

あたしはイトコだから、達郎の婆ちゃんはあたしにとっても婆ちゃんだ。

そして達郎が言う婆ちゃんとは母方の麻砂お婆ちゃんの事だろう。

ふだん顔をあわすことのない祖母がなにを話したのか、興味がある。

「なに、聞かせてよ」

「昔、婆ちゃんの知り合いに有名な茶道の先生がいた」

「ふんふん」

「俗にいう風流人という人で、茶の道以外にも書画や芝居を観るのが大好きだったそうだ」

達郎の家は代々官僚を輩出したいわゆる名家。

お祖父さんは法務大臣だし、父親は警視総監で兄も警視正。

風流人と付き合いがあってもおかしくない。

「ところがその人はどういうワケか桜が大の苦手だったそうだ」

「桜が苦手?」

なんか急におかしな話になってきたぞオイ。

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