月と太陽の事件簿5/赤いランドセル
「わざわざ持ち上げて落とすようなマネを…」

言いかけたあたしの頭の中に、突然ある考えが浮かんだ。

もしかして達郎はワザとあんなセリフを口にしたのではないか。

あたしが舟本に対して腹を立ててたので、あたしのために仕返しをしようとして…。

「ねぇ達郎」

確かめようとして口を開きかけたがやめといた。

自意識過剰すぎるような気がするし、訊いたとこで達郎がそれを認めるとは思えない。

ましてや犯人に「仕返し」なんてもってもってのほかだ。

あたし1人が妄想でもしてればいい。

あたしは達郎の腕に自分の腕をからめた。

「レミ?」

「お茶してこ、達郎。おごってあげる」

「珍しいな」

「事件解決のお礼よ」

あたしは達郎の腕を引くようにして歩き出した。



風が吹き、桜の花びらが舞う。

お花見に行けないまま、桜は散ってゆく。

でも今年は桜を見ながら達郎と一緒に歩いた。



それだけで、満足。



『赤いランドセル』
END

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