月と太陽の事件簿5/赤いランドセル
「どれくらい苦手かっていうと、芝居を観てて、舞台にハリボテの桜が出てきただけで卒倒するほどだったそうだ」

「重症ね」

「それだけじゃない。その人がある日、茶の席に呼ばれ、とある部屋に通された」

あたしは無言でうなずいた。

「その部屋に入った途端、その人は息苦しくなって、脂汗が浮かんできたそうだ」

なんか怪談話めいてきたなぁ。

「その家の人は、その人が桜が苦手だということを知ってたので、部屋から桜は遠ざけてたつもりだった」

「でも桜アレルギーが出たんでしょう?」

「そこで調べてみたら、床の間に飾ってあったお盆が、桜の木を彫ったものだったのさ」

すごい話。

あたしは肩をすくめて笑うしかなかった。

「でもその人、桜が苦手ならいまの時期どう過ごしてるのかしら?」

「婆ちゃんが言うには、戸締まりして一歩も外出しないそうだ」

< 3 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop