月と太陽の事件簿5/赤いランドセル
麻砂お婆ちゃんは作り話をするような人ではないから、たぶん本当のことだろう。

ちょっと気の毒な話だと思った。

あたしは桜の花はキレイだから好きだ。

平安時代には悲しくなるぐらい桜が好きで、そんな歌を詠んだ人がいた。

今なんて桜を歌った曲が幾つあるやら。

みんなが好きなものを嫌いな人って、この時期はどういう気分なんだろうか。

「でもまぁいいんじゃないか」

「なにが?」

「桜は3日もあれば散るけれど、花粉はそうもいかない」

達郎は道行く人々を眺めた。

5人に1人はマスクをしていた。

あたしも達郎も花粉症には縁がない。

「あたしたちはラッキーなのかもね」

おかげで桜の美しさを堪能できる。

「まったくだ」

達郎はポケットから何やら取り出した。

よく見たら桜餅だった。

「ふつうソレって持ち歩く?」

「桜みると食いたくなるんだよ」

花より団子か。

コイツもある意味、気の毒な人種だ。

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