切恋バスタイム(短編集)
●君が行く先に、光が満ち溢れていますように
「……僕達、友達に戻ろうか。」
ようやく紡いだ言葉が、思ったよりも落ち着いているように聞こえた。別々の道を歩くべきだと分かっていながら、我が身可愛さにズルズルと彼女のことを繋ぎ止めておいた僕。そして、同じくそれに気付いていながら、ずっと側に居てくれた彼女。あんなに悩んだ台詞なのに、口に出してしまえば呆気なかった。
本当は、自分を騙してでも彼女のことを手放したくはなかった。“二人の行く先は同じだ”と、思い込んでいたかった。でも、僕達の人生は決して同一ではなく、それぞれのためにちゃんと用意されているものだから。苦い言葉を口にするのは、せめて僕の役目でありたかった。
「……そうだね。」
彼女の方も語尾が震えることはなく、冷静に思えた。勿論その表情は翳っているけど、何処となく安堵が窺える。僕の選択は、どうやら間違っていなかったようだ。
いつからかは分からないけど、僕達の歩む道は少しずつズレ始めた。その時からきっと、それぞれの時計は止まっていた。その証拠に、僕は昔の面影ばかりを求めて、今とこれからの彼女を見ようとはしていなかったからだ。未来を描けないのなら、一緒に居ない方が良い。僕にとっても彼女にとっても、もっとふさわしい相手が存在するのだろうから。
「ちょっと寂しいけど、仕方ないよね。今までありがとね、友都(ゆうと)。」
「……ううん、こっちこそありがとう。海子(うみこ)ならきっと、画家になるって夢、叶えられるよ。」
「うん、頑張るね。友都は……」
言いかけた彼女が、ふと言葉を止める。言うべきか言わざるべきか、迷っているのだろう。責めるようにではなく、優しく「何?」と問う。すると、小さく笑って教えてくれた。
「……お節介かもしれないけど、優柔不断な所、直すんだよ。今日の友都は、自分から別れを切り出してくれたから、前進傾向にあるね。次に好きになった人は、リードしてあげてね。」
ようやく紡いだ言葉が、思ったよりも落ち着いているように聞こえた。別々の道を歩くべきだと分かっていながら、我が身可愛さにズルズルと彼女のことを繋ぎ止めておいた僕。そして、同じくそれに気付いていながら、ずっと側に居てくれた彼女。あんなに悩んだ台詞なのに、口に出してしまえば呆気なかった。
本当は、自分を騙してでも彼女のことを手放したくはなかった。“二人の行く先は同じだ”と、思い込んでいたかった。でも、僕達の人生は決して同一ではなく、それぞれのためにちゃんと用意されているものだから。苦い言葉を口にするのは、せめて僕の役目でありたかった。
「……そうだね。」
彼女の方も語尾が震えることはなく、冷静に思えた。勿論その表情は翳っているけど、何処となく安堵が窺える。僕の選択は、どうやら間違っていなかったようだ。
いつからかは分からないけど、僕達の歩む道は少しずつズレ始めた。その時からきっと、それぞれの時計は止まっていた。その証拠に、僕は昔の面影ばかりを求めて、今とこれからの彼女を見ようとはしていなかったからだ。未来を描けないのなら、一緒に居ない方が良い。僕にとっても彼女にとっても、もっとふさわしい相手が存在するのだろうから。
「ちょっと寂しいけど、仕方ないよね。今までありがとね、友都(ゆうと)。」
「……ううん、こっちこそありがとう。海子(うみこ)ならきっと、画家になるって夢、叶えられるよ。」
「うん、頑張るね。友都は……」
言いかけた彼女が、ふと言葉を止める。言うべきか言わざるべきか、迷っているのだろう。責めるようにではなく、優しく「何?」と問う。すると、小さく笑って教えてくれた。
「……お節介かもしれないけど、優柔不断な所、直すんだよ。今日の友都は、自分から別れを切り出してくれたから、前進傾向にあるね。次に好きになった人は、リードしてあげてね。」
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