切恋バスタイム(短編集)
「――容(よう)、来てたんだ。ただいま。」



 小川のせせらぎのような声で目を覚ますと、あいつが帰ってきていた。うん、と短く返せば、「ご飯食べた?まだだよね、きっと」の言葉。頷いたら「今から作るね」と言われて、また頷く。今日は暑すぎて、手伝う気にすらなれない。



「……和華(わか)、さっぱりしたのが良い。」

「うん、今日は冷やし中華にするからね。野菜もしっかり取らないと。」

「トマトはいらない。」

「ダメです。ちゃんと食べなさい。」



 何だよ、その“次のテスト難しくされたいの?”的な視線は。これだから、教師って奴は。うるさく言われるのも面倒だから、「へいへい」と適当に返す。それだけで満足したのか、エプソンをした後ろ姿がキッチンへ消えた。

 しばらくすると、色とりどりの野菜とワカメが乗った冷やし中華と、昨日手作りしたという杏仁豆腐が出てきた。ここに来るようになってから置きっぱなしにしているスウェットに着替えたら、冷蔵庫から麦茶を取り出す。二つのコップと一緒にテーブルに並べると、あいつが椅子座るのを待った。
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