切恋バスタイム(短編集)
 ――まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった。離れることになった時に、将来を心配するようなことを言われるとは思っていなかった。だから、ほんの少しだけ考えてしまった。もしも出会った頃に帰ることができたら……でも、その思いはすぐに消えた。



「……うん。じゃあ、また何処かで。」



 精一杯口角を上げて、静かな喫茶店を後にする。縁を切る訳ではないから、また連絡を取ることもあるだろう。その時までには、僅かに残ったこの切なさも、なくなっていれば良いのだけど。

 家に帰ると、途端に訪れた無の空間に呆然とした。こうなると分かっていて別れを告げたのに、どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。離れる時が来るのなら、どうして出会ってしまったのだろう。そう思ったら、何かが頬を伝い落ちていった。

 ――喉が痛くなるくらい、声を上げた。この悲しみを受け止めてくれる人は、誰も居ない。自分の涙声が壁に跳ね返ってこだまのように響くのを聞くと、何て馬鹿みたいなのだろうと思った。

 別れの後には、何も残らない。あるとすれば、この何とも言えない寂寞感。それから、再び前を見るために必要な時間だろう。



「……これでおしまい、か。」



 思い返せば、後悔ばかりの人生だったかもしれない。でも、今初めて、“こうして良かった”と思えた。くすぶっていた感情も、時間をかけて段々と晴れていくだろう。

 さよならと同時に動き出すそれぞれの時計が、もう止まることのないように。僕は目を閉じて、そっと願いを込めた。



fin.
11.04.25 奏音

イメージソング
巡音ルカ「Just Be Friends」

出演
滝野友都
川角海子
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