切恋バスタイム(短編集)
●ダブル・メモリアル・ソング※男の子が男の子に恋している描写アリ。苦手な方は、閲覧をお控えください。
 どうせなら、この思いを受け取ってから居なくなって欲しかった。何度後悔しても、目の前の事実は変えられない。

 谷野宮悠葵(ゆうき)は……僕の前から姿を消したのだ。



「――深調(みつき)!お前また音楽室に居たのかよ!?毎日毎日ピアノとお見合いして、よく飽きねぇなぁ?」

「……何処に居ようと僕の自由でしょ。谷野宮、部活は?サボってたら卓球界のホープになれないよ。」



 入学してからクラスに馴染めずにずっと一人で居た僕に、ある日突然構うようになったのが谷野宮だった。昔から人見知りが酷い僕は、ピアノの前でしか上手く自分を表現することができない。だって、僕にとって唯一嘘をつかない存在だったんだから。

 正直言って、初めの頃は谷野宮をウザいと思っていた。一人が良いんだからそっとしといてよ。こんなのに構ってたら、お前が変人のレッテル貼られるんだぞ。そう言っても、奴は「何で?」とニコニコ笑うだけ。それどころか僕を名前で呼び捨てし始めて、もうお友達だとばかりにしつこく話しかけてくるようになったのだった。



「残念ながら、今日は部活休みなんだよなー!だから、放課後まで深調に付き合ってやるよ!!」

「……余計なお世話。聞いてくれとも言ってない。」

「まぁまぁ、そう言わずに何か弾いてよ!お前が好きな曲で良いからさ。」
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