切恋バスタイム(短編集)
 それから少しの間の記憶が、僕にはない。気付いたら制服を着て、両親や同級生達と共に葬式へ参列していた。別れを惜しむ余裕すらなかった。僕のたった一人の友達が、居なくなってしまった。

 何で黙って居なくなっちゃうんだよ。一番に結果報告してくれるんじゃなかったのかよ。それにお前のこと、まだ名前で呼んでなかったのに。まったく、だから嫌なんだよ。そっちから近付いてきたクセに離れていくなよな。



「ほんと、自分勝手なんだよ、谷野宮は……」



 風に舞って何処かへ飛んでいった紙吹雪みたいに、谷野宮は僕の日常から姿を消した。こんなことなら、嫌われても良いから自分の気持ちを伝えておけば良かった。居なくなる前に告げておけば良かった。

 今となってはもう、側に居ることすら叶わない。奴を送る儀式が終わった後も、僕はずっと、その場を離れられずにいた。さっき灰になったのは谷野宮じゃなくて、本当は別の人なんだと思いたかった。だけど……



「僕があげたリストバンド、付けてたもんなぁ……あれじゃ疑いようがないじゃん……」



 僅かな可能性も絶たれた、そんな時。絶望的な気持ちになった僕の肩を叩いたのは、谷野宮のお母さんだった。
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