切恋バスタイム(短編集)
「……あなたが佐幸(さこう)深調君?悠葵からこれを預かっているんだけど……」



 差し出された小さな紙袋。その中に入っていたのは、8分音符の形をした銀色のチャームが付いたストラップだった。



「遠征先で見つけて買ってきたらしくてね。あの子がホテルに泊まってる時、電話でチラッと聞いたもんだから……鞄の中で、壊れずに残ってたみたいなの。良かったら、大事にしてあげて?」



 ――何度も何度も頷く。いつの間にか嗚咽まで洩らしていた僕は、ストラップを強く握り締めた。

 お前、ほんと酷いよ。“俺のせいでピアノやめるな”と“俺を忘れるな”ってことなんだろ。ズルいよな、お前。でも、嬉しかったよ。

 心配しなくても、ピアノはずっと弾き続けてやる。だから、安心して眠りなよ。僕もここで、頑張るからさ。



「……ありがとうございました。」



 後からやってきた谷野宮のお父さんにも、笑顔で言うことができた。ストラップを早速携帯に付けてみる。眩しいその輝きは、まるであいつの笑顔みたいに綺麗だった。
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