吸血鬼の花嫁
「えぇっ」
「…そんなに驚くことかよ。俺だって吸血鬼の館の住人なわけだし」
確かに吸血鬼に仕えているのだから不思議ではない。だけど、ルーが普通の人間だと信じたい気持ちがどこかにあった。
「…何歳なの?」
「えーと、六十ぐらいかな。だから、あんたが来てから、孫が出来たみたいで嬉しくってさ」
「ま、まごっ?」
勝手に弟のように思ってたルーに、まさか孫のように思われていたとは知らず、私は目を丸くした。
「まー、俺より爺さんな吸血鬼がいるから若く見える気持ちも分からんでもないけど。
…俺のこと、爺さんって呼んでもくれてもいいんだぜ」
「それはちょっと…」
吸血鬼が凄く年上なのは分かる、雰囲気で。けれども、ルーが年上なのはどうにも納得がいかなかった。
私はルーを上から下まで眺める。
姿形もそうだが、性格がそう見えないのだから、仕方がない。どこからどう見ても、お爺さんではなくやんちゃ坊主だ。
「ちぇっ。孫に甘えて貰うのが夢だったのに」
「本当の孫を作ればいいじゃないの」
年を取らずに長く生きているなら、すぐに孫の顔ぐらい見られそうだ。
「うーん、そいつは難しいだろうなぁ」
なぜと問う私を、ルーがごまかすように曖昧な顔で笑う。
笑いながら、詮索を拒んでいた。
「孫が駄目なら、あんたのことは主人の花嫁程度に思っておくしかないな」
「そうしておいて」
自分より見た目が若い祖父が出来るのは、どう考えても微妙だった。
何より、私にとってルーは弟のような存在で、その印象を塗りかえるのは当分無理そうだったから。