吸血鬼の花嫁
2
夜からまた、雪が降り出した。
ルーが街へ布を仕入に行ってから一週間が立つ。
今の時期、かなり南の方の街まで行かなければ、店は開いていなかった。
どこまで行ったのかは知らないけど、無事に帰って来て欲しい。
そう思いながら、どの衣装をどうやって作るか悩んだり、家妖精が持ってきた端切れで小物を作ったりしていた。
喋る相手がいないのは寂しい。
吸血鬼は、本を受け取ったあの日から、一回も姿を見ていなかった。
「ルーが帰ってきてくれないと、独り言が増えちゃうわ」
私は廊下を歩きながら呟いた。ずっと針仕事をしていたので、気分転換に廊下を散歩することにしたのである。
廊下は薄暗く少し怖かったけれど、他に散歩出来そうな場所がなかったのだ。
「あれ、女の子がいる」
声と共に廊下の暗闇から見知らぬ姿が現れる。
赤に近い茶と、明るいグリーンの瞳の青年が立っていた。
私より少し年上だろうか。人の良さそうな顔が、興味津々で私を見下ろしている。
見覚えはない…はずだ。
「初めまして、だよねぇ」
「どなたですか」
「ルー坊から聞いてない?」
お客さんが来るなんていう話は一つも聞いていない。
と、いうことはこの館の住人なんだろうか。
「もしかして家妖精さん?」
青年がにこっと子供のように笑った。
「そうでーす。家妖精のハーゼオンです、よろしく」
「私はアイ…」
「わ、いてっ、こらやめろって」
ハーゼオンと名乗った青年は、私の自己紹介の途中で突如何かから体を庇った。
庇いながら、私を見てえへへとはにかんだ。
怪しい。
私の直感が告げる。
名乗ろうとした名を慌てて飲み込んだ。