吸血鬼の花嫁
ハーゼオンは出された紅茶に砂糖を溶けないほど入れ出した。胸焼けしそうな量である。
ルーが嫌そうな顔でそれを見ていたが、文句は言わず私へ向きなおった。
「どこから説明すべきか…。そういえば、花嫁が一番初めに来た時、怒鳴って悪かったな。こいつと間違えたんだ」
言われてみれば、一番最初にルーは私を誰かと間違えていた。
「来るっていう連絡の日から何日経ってもこねぇから、苛立ってて。
後一年ぐらいこねぇかと思ってたんだが、まさか俺の留守中に来るとは」
「はははは。たまたまだって」
恨めしそうなルーとは反対にハーゼオンは楽しそうだ。陽気な性格なんだろうか。
「待たされるこっちの身にもなってくれって感じだろ。本当に、こいつといい紫といい吸血鬼は気ままというか碌なのがいないというか」
感情がこもるあまり、ルーはテーブルをばんっと叩いて力説しだした。
ティーカップがかたかたと揺れる。
「え、ええと、うん」
私はまた話に置いていかれ気味だったが、勢いに圧されて頷いた。ルーは私の知らないところで苦労しているらしい。
隣のハーゼオンはルーの愚痴を聞き流しながら優雅に紅茶を飲んでいた。
「悪い、話が逸れた。んで、強い吸血鬼は互いに名を呼び合わないことになっているんだ」
「前にもそんなこと言ってたわよね」
強いと名前を呼べないとかなんとか。
「あぁ。名を呼ぶことを本人同士が了承しても、互いの眷属が許さないことが多いんだよ。
お前ごときが我らの主の真名を呼ぶなんて、と大揉めしたことがあったらしい。それ以来、ある程度実力のある吸血鬼は色による尊称で呼ぶ習わしになっている。
逆に俺が吸血鬼を名で呼んだりすると、他から眷属に名を呼ばせるなんて、って馬鹿にされるわけ」
一度話を切って、ルーは自分も紅茶を飲んだ。