吸血鬼の花嫁
「赤、つまり赤赦の俺。この国の吸血鬼である青の青珀。そしてもう一人、紫の紫焔(しえん)が一応の同盟関係にあるんだよ」
ルーがお茶を飲んでいる間にハーゼオンが付け加えた。
「うちの吸血鬼は盟約によってこいつの後見になってるから、青と赤は一緒に考えられることが多いんだ、悲しいことに」
「そんなに喜ぶなよ」
「逆だ!」
どこか似た雰囲気の二人のやり取りは、兄弟がじゃれているようでほほえましい。
私が小さく笑うと二人は顔を見合わせた。
「そういえば、お前に不本意ながら頼みたいことがあるんだけど」
「あ、俺もルー坊に伝えておきたいことがあってここに来たんだった。紫焔のとこの直系が行方不明らしいから気をつけろって」
その言葉にルーが、目を見開いて固まる。
「…それ、いつの話だ?」
「え、三ヶ月ぐらい前だったかな。紫焔の寵愛を失って自暴自棄になってるらしいよ」
まったく紫焔の遊びには困っちゃうよねぇと、ハーゼオンが暢気に言った。
がたがたとルーの肩が小刻みに震え出す。顔に浮き上がる感情は、怒りだ。
立ち上がったルーは乱暴に座っているハーゼオンの胸倉を掴む。
「どうしてそれを早く伝えてくれなかったんだっ」
「え、別にたいした話じゃないし…」
ハーゼオンが驚いている。状況が飲み込めていないようだ。
「どうしたの、ルー?」
「花嫁…、俺が捕まえておくから、こいつを殴れ」
「え」
「親指を握りこまず、なるべく痛くなるようおもいっきりいけ」
「お、落ち着いて、ルー。私にはまだ、その人を殴る理由がないわ」
ルーは唇を噛んだ。
「こいつが予定通りに来て、このことを伝えてさえいれば、あんたは花嫁にならずにすんだのかもしれないのに」