スノウ
一点に集中されたフロアの熱が散らばるのを感じた矢先に、慧が私のところへ戻ってきた。

「どうだった?」

いたずらっ子のような目をして私の顔を覗き込む。


「なんかよくわからないけどすごかった。こういうところ、はじめて来たけど、慧がプレイをはじめた瞬間に空気が変わったってわかった。」

慧は満足したような笑みを浮かべて言った。


「ミチルはまだ知らない。多分。指輪をくれた男が幸せのすべてを与えてくれると思ってるでしょ。それは違う。青い鳥はその男じゃない。」



「わかってる。これから隼人と関係を続けても温かくて冷たい。嬉しいけど悲しい、その繰り返しなんだよね。」


泣きながら笑った。


「泣いて鼻声になってもいい声。俺、その声好きだな。」

真剣な顔をして慧は言った。

「ありがとう」


慧が一枚のCDをとカードを渡してきた。

「俺、今夜イベントの打ち上げでもう自由な時間がないからこれ聴いて元気出せ!俺が作ったCD。あとカードキーは大通の一番でっかいマンションの最上階。そこ俺ん家だからなくすなよ。」

「ちょっ!!」

呼び止めようとしたが走って消えてしまった。

クラブのスタッフにキーを預けようと思ったが、もし私が知らないだけで有名だったら…悪用されたら…などと考えたら渡せなくなってしまい、タクシーに乗り込む。

タクシーの中で思った。

慧の身勝手な行動に振り回されたようで救われたと。

ふと携帯をチェックする。
隼人からの着信もメールもない。

隼人の電話帳を削除した。

もう自分から連絡することのないように。
自分が間違った方向へ行ってしまわないように。

また涙が出た。

雪はしんしんと降り積もって


私の悲しい気持ちが積もっていくように思えた。
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