スノウ

目が覚めて

泣いたり笑ったりしているうちに、私はいつの間にか眠っていた。

5年もの間一緒にいた恋人と別れたというのに、どうして眠れてしまったのか。

そうだ、ここ数日眠れることはなかったし、別れ話とはいえ隼人に会えて気が緩んだのだろう。
本当に私はおめでたいオンナだ。

テーブルに見慣れない封筒が置いてあった。

「みちるへ」

隼人の字。
この5年間、一度だって手紙なんてもらったことなかった。

封を空ける。


-星野 みちる様

きっとこの手紙を読んだらみちるはぼくのことを嫌いになるかもしれないね。
さっき話したこと、今のぼくの気持ちを再確認するためにも手紙を書きます。

ぼくはとにかく偉くなって、人より高いところへ行きたかった。

ずっと貧乏で、奨学金で大学行って、貧乏だからと馬鹿にされないように一生懸命生きてきたつもり。

だけど、もうわからない。
きみを好きだと、愛していると今まで思い込んできたけれど、違うのかもしれない。

ぼくの理想をカタチに変えたらきみだった。

いい大学へ行って、かわいい彼女ができて、いいところへ就職して、人の羨む生活がしたい。それしか考えたことがなかった。

決してきみを大事に思わなかったわけじゃない。
だけど自分自身の幸せが一番大切で、みちるという一人の人間が見えていなかったことにやっと気がついた。

この先きみと別れたことをきっと悔やむだろうし、社長の娘と結婚したことを悔やむと思う。

だけど、きみと今一緒になっても悔やむってわかってる。

5年の間そばにいてくれたきみへの精一杯の誠意が別れることなんだなあと思う。
きみはぼくと別れて更なる幸せを掴むはず。

ぼくが幸せにしてあげられなくてごめん。

きみはぼくの理想であることには変わらない。

これから先も一番にきみを思い出すと思う。

きみも言っていたけれど、お互いに老化によって劣化した姿を見ずにすむというのは、それはそれでいいのかもしれない。

5年間ありがとう。
さようなら。

掛川 隼人
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