スノウ
驚いた。


目に映っている光景が、現実の世界ではないような部屋だ。少なくともわたしの育ってきた23年間の間、こんな部屋に住むリアルな人間を見たことはない。

「何者?」

慧は笑って言った。

「おれはただの音楽好き。DJだよ。あと音作ってる。」


音造ってるって…この金髪の青年は…ますます訳がわからない。

「うちは親が死んで、お金だけ残ったの。だからいいマンション住んで、好きな音楽にだけ没頭していられるんだよ。コーヒー飲む?」

わたしはただ外の景色を眺めていた。
大きな窓は、ちらちらと舞う雪を映してきれいな一枚の絵のようだ。

こんなモデルルームかドラマにでも出てくるような高級物件に住んでいる彼。

「歳はいくつなの?」

年齢不詳の慧は

「28」

とだけ言った。

「見えないね。わたしと同じくらいかと思った。」

慧はくすくす笑って

「おれは苦労知らずだから。」

と言う。

「みちるって目がきれいなアーモンドの形してるよね」


「何言ってるの…。」

何故、わたしも知らない人の家について来たりしたのだろう。
靴を履いて帰ろうと玄関へ向かう。

「待って、行かないで。」

慧が腕を掴んだ。
哀しそうな目をして。

「あなた、何がしたいの」

真っ直ぐな瞳を離せなかったのはどうしてだろう。
この日からわたしのすべてを変えてしまうなんて想像もつかなかった。





私はまだ知らなかった



あなたのくしゃくしゃに笑う



その笑顔の下の


あなたの悲しい過去を―
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