となりの野獣
「大丈夫ですよ。
あなたは今までひとりで頑張ってきたじゃないですか」

「いや…しかし…やってもらってばかりでは」

「あなたは愛を与えたわ。
大事な斧を使い続ける愛情。
小さなものを可愛がる愛情。
彼らはそのお返しをしたいのよ」

「では…何故、俺は人間に戻らないんだ…」

それは浅ましい質問だった。
与えたからといって同じ見返りを求めるのは間違っている。

クスとそんな俺を笑う気配がした。

言ってしまってから一瞬後悔したが、まだ誰にも俺の境遇を話していないことに気づく。
皆は俺を最初から獣だったと思っている。

その正体が、亡国の王子だったというのはあまりにもありふれていて今更言う気にもならなかった。


女神に魔法をかけられ、唯一解けていないみじめな王子の身の上など…。


「それは愛の大きさですわ」

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