勝手にハニーキス
甘い誘惑
男二人が溜め息を吐いている頃。
まだ、溢れる涙を止められないままに校舎の影で一人うずくまる静奈がいた。
「もう……ヤダ……」
唇に残された感触は、ぬぐってもぬぐっても消えそうにない。
明日香の持っているティッシュと自分の分。それが尽きるまでゴシゴシと拭き取ったせいで、小さな唇は赤く染まり少し腫れてしまっているようだ。
「ちょっと冷やそう。何か冷たい飲み物買ってくる!」
財布を手にパタパタと明日香が駆けて行ったのをうつろな瞳で見送って……もう何も残っていない唇をまた手で擦る。
このままでは荒れてしまう……それは分かっていたけれど、とてもリップを塗りなおす気にはなれなかった。